合格体験記

■東京大学工学部 編入学

本記事では東大合格者と講師の対談の様子をお伝えしています。ただし、合格者ご本人のご要望により、氏名や出身学校その他ご本人を特定することができる内容を掲載しないよう、可能な限り、プライバシーに関わるインタビュー内容を一部加工しております。あらかじめご了承くださいませ。

目次

  1. 東大に合格した話
  2. 高等専門学校から編入を目指すこと
  3. 東大を目指すきっかけ
  4. 試験の手応え
  5. 高専での学生生活
  6. 勉強を始めた時期
  7. 英語
  8. 数学
  9. 物理
  10. 面接・口頭試問
  11. 勉強することについて

1.東大に合格した話

東大に合格してどうだった?

まず一次試験の合格発表なんですが、発表のある午前10時には学校で授業を受けていました。それで授業中に東大工学部のウェブサイトを見て、そこで自分の受験番号を見つけたときには、まずはホッとしました。授業の真っ最中に、机の下で隠れてスマホで確認しました。

そのときは「嬉しい」というよりも「安心した」という感じの方が強かったですね。

授業中にそんな嬉しい結果発表を見たら、その場で椅子から「ガタッ」と立ち上がってしまいそう笑

それで二次試験の合格発表は1時か2時くらいにあったんですが、その時もまた授業中だったので、再び机の下で隠れてスマホで確認しました。(東大は試験成績によっては第2志望の学科に合格することがあるが)合格したのが第1志望の学科だったので、そのときに「ああ、良かった」と安心しました。

合格したのに随分と冷静なんだね。

安心感の方が大きかったです。高専の先生には、二次試験の結果発表が終わった後に報告しに行きました。(第1志望の学科に落ちて)第2志望の学科にしか合格できなかったのなら東大には行かなかっただろうと思います。

東大で面接を受けた際に、「(東大工学部の中で)第2志望に受かったらどうするか」みたいなことは訊かれた?

それは訊かれませんでした。おそらく試験の出来がよかったからだと思います。第1志望の学科を志望していたのは5~6人くらいだったかと思うんですが、その学科に合格したのは2人だけでした。

2.高等専門学校から編入を目指すこと

あなたが通っている高等専門学校の中で、大学への編入学を目指す方はどのくらいいた?

編入学試験を受けるのは、学年のおよそ3~4割くらいです。編入学の希望者がいるからということで学校が英語と数学の講座を設けていたので、それを受講しました。確かに試験で出題される分野の対策をしようということで講座が準備されていたのですが、旧帝大クラスや東大を目指そうと思ったら、もっと自分で勉強する必要があると思いました。

3.東大をめざすきっかけ

あなたはどういう理由で東大を目指そうと決めた?

志望大学を決めるときにいくつかの条件を設定したのですが、その条件のすべてに当てはまったのが東大だった、ということです。立地、学問系統、そして受験科目の3つで条件を設定したら、選択肢はおよそ3つの大学くらいにしぼられました。その中に東大があったというわけです。

過去問題はどれくらい解いた?

高専では東大の過去問題に取り組んだことがなかったので、個別指導で10数年分は解きました。1問あたり30分制限の問題を4題解くわけですが、時間内に解き終わった過去問題はありませんでした。また、時間を測らずにじっくりと取り組むこともありました。時間をどれだけ掛けても分からない問題もあり、それは諦めざるを得ませんでした。そんな問題は誰も解けないだろうと思います。

どちらかと言うと満点を狙うべき問題というよりも、どこまで道筋をつけて考えられるかどうかが試される問題だった。確率の問題も結構難しかったね。

あと苦手というより特に難しいと感じたのは、空間図形の問題です。これはやばい。東大の編入数学の中でも一番難しいんじゃないかと思いました。空間図形の分野は、たしかに高専でも一応勉強したので解けるはずだと思っていたのですが……それなのに難しかったです。

想像しづらい、計算しづらい、そういう難しさがあったと思う。対策するときにどんなことを意識した?

ひたすら過去問題を解いて、経験値を溜め込んで発想の幅を広げつつ、計算の速度や正確さを上げようと考えて勉強していました。数学で点数を稼いで、英語と物理学が多少悪くても合格ラインを取れればと方針を決めていました。実際、数学の得点は400点中330点でした。

4.試験の手応え

試験を終えた直後はどんな感触だった?

試験終了後は「やり切った」と思いました。その時点で「受かっている」という感触もありました。「仮に受かっていなかったとしてもそれは他の受験者の出来が相当良かったからだ」、そう思うくらい自分の中では全力を出すことができたという感触でした。

だからもし不合格だったとしても悔いはないと思いました。帰りの新幹線の中でそういう風に考えて、こっそり泣きそうになりました(笑)。

5.高専での学生生活

そういえば高専で競技プログラミングに取り組んでいたと聞いたけど、試験後も取り組んでいる?

受験勉強をしていてブランクができてしまったので、試験後には問題を解いてリハビリをしました。コンテストに出場するのではなく、単にリハビリとして取り組みました。

ただ10月くらいに1問も解けないような問題にぶちあたって萎えちゃって、今はちょっと控えています。最近また始めるつもりです。

何か1つ没頭することなど特色がある人って、さまざまな場面で他人の目に留まりやすい。競技プログラミングに取り組んでこれだけの実力がある、というのはキャラが立って良いね。

6.勉強を始めた時期

編入学試験に向けて勉強をし始めたのは、いつ?

4年生4月から編入数学の教科書や参考書を買って勉強を始めていたんですが、その年の12月に親から「こういうところもあるよ」と中央ゼミナールを勧められて、それで個別指導を受けようと考えました。

4月から取り組んでいた自習と、12月からの個別指導で何か変わったことはある?

英語の成績が劇的に変わりました。実力がめちゃめちゃ伸びました。

7.英語の勉強

英語ではどんな対策をした?

単語や文法は基礎から見直しました。

英作文について言えば、今までは機械的に単語を英語に替えて、それぞれを文章構造にただ当てはめて並べるということをしていました。そうではなくて、文章の意図を読み取った上で直すという練習、それが良かった。それで英語の先生にめちゃめちゃチェックしてもらいました。

毎回の授業では、初めに小テストを行い、範囲を決めて出題して、英単語、英作文10文のチェックを受けました。

英語は……苦手?

中央ゼミナールで受講し始める時に受けた実力判定テストの成績がボロボロだったので、英語の先生から心配されたんです笑。でも受験寸前まで実力を伸ばそうと勉強した結果、先生から「あなたは実力があるし受かると思うからガンバれ!」と励ましの言葉を受けたので、それで一層ガンバることができました。

講師の期待に応えることができた、というのも嬉しいことでした。

英文読解はどう?

中央ゼミナールで他の人も使っているテキストに取り組み、毎回課題をこなしていました。

和訳の問題は、初めは変な日本語になっていました笑。そこから英語の文脈を捉えながら日本語の表現にも気を付けてしっかりと訳すようになりました。ノートを見返すと、日本語訳が次第にキレイになっていく様が見られます笑。

勉強を通じて日本語力が上がりました。英語の対策、というよりも日本語を使って文章を書く能力が身に付きました。

そして受験直前くらいになると、答案を添削してもらっても先生から減点だと指摘されることはなくなっていきました。

さまざまな高専生を見てきたけれども、英語は他の受験生に比べて皆等しく苦手だね。

学校の先生方もそう認識しているので、高専のカリキュラムでがっつりと英語を組むようにしているんだと思います。ただ、個人的にはテストの構造に問題があると思います。

それまでは英語の得点があまり伸びずに悩んでいたのですが、教科書の内容を頭に入れて、あとちょこっと対策すれば、テストで簡単に点数が取れる。そう気づいた瞬間に「英語って簡単じゃん」と思って点数が一気に上がりました。

でもそれが問題だと思います。学校のテストが出来るということと、編入学英語が出来るようになることとの間には、かなりの乖離があるんじゃないか……学校英語ができただけでは編入学英語に対応できない、それが「英語が出来ない」ということに繋がっているんじゃないか、そう思いました。

家での勉強時間はどう?

まず学校の勉強ですけど、普段はしていません笑。基本的に授業はちゃんと聴いていて、テスト1週間前にちょろっと対策すれば、試験範囲の内容を復元できたので。

中央ゼミナールの課題は、家で全部きちんとこなしていました。課題がまだできていない状態で個別指導を受ける、なんてことの無いようにして、課題はすべて取り組みました。その後余裕があれば、自分で持っている問題集を解いていたかなと思います。

8.数学の勉強

数学はどう?

高専に入学した時から比較的得意で、他の科目に比べて好きな方でした。1年生からは遊んでいたので勉強し始めたのは3年生になってから、です笑。でも学校内では、数学で私に勝てる人は多分いないだろうというぐらいには得意でした。

学校ではどんな授業だった?

・最近になって気づいたことですが、高専でやっていた数学は、数学というよりも計算だったのか、と。問題を与えられて、手順を思い出してその通りに答案を書けば点数がもらえてしまう、そういう学習になっていました。

ただ高専入学後から早い段階で、独学で調べてちょこちょこ数学に取り組んでいて、それが癖になっていました。それが力の基盤になっていると思います。

高専の部活動で競技プログラミングに取り組んでいますが、それも数学の学習に役立ちました。競技プログラミングでは離散数学や組み合わせ、学校の授業では線形代数や微積を学ぶので分野は異なるのですが、頭の使い方が似ています。そこで学んだ考え方が、数学の学習に役立ちました。

手順を組み立てて、というのが似ているね。

そう考えると、高専の数学は易しかった。道具に過ぎないと思いました。やはり応用することが重要で、そして大変です。

受験前にはどんな対策をしていた?

受験直前期にはひたすら過去問題に取り組んでいました。中央ゼミナールの先生から課題をもらって、家で過去問題に取り組んで、そして答案を先生に添削してもらいました。

9.物理の勉強

物理はどう勉強していた?

高専の授業では基本概念の説明を受けて、それを使って問題をこちょこちょといじるだけでした。他方で編入学試験の問題ではそうはいかない。基本概念を知っているのは当たり前で、対象が複雑で、そして考えなければならないことがいっぱい。基本を押さえた上で考えさせる、そんな問題です。

パターンのように考えていては対処できない。また、力学の問題などは現実にあるような対象をモデルにしていて、とてもおもしろい。

東大の問題では、基本をしっかりと押さえた上で、そこから問題を見てきちんと1個ずつ考えることができるかが試されました。何かの式に当てはめればすぐに答えが出る、とかそういう発想だと答えが出ないようになっています。

物理の勉強で最も印象に残っているのは?

中央ゼミナールでは物理も過去問題を解いて対策をしていました。答案をつくり、添削してもらって、そしてわからないところを一緒に考えてもらっていました。自分の中では分かったつもりになっていた分野も、授業を受けてその理解不足を痛感しました。

物理の先生には、初回の授業で運動方程式の立て方について詳しく教えてもらいました。運動方程式というと高専の授業で勿論取り扱われていたのですが、それまであんまり頭に入っていなくて、適当にしか学習していなかったと思います。

その経験が後の学習に役立ちました。

学校の授業で運動方程式を取り扱うとなると、1回の授業でさらっと流してしまう。なんとなく式が出て、それを解いたら運動が出るかのような気持ちになってしまうことが多い。しかし実際には異なる。

以前は問題の条件が複雑になってくると理解不能になってウロウロとしていたと思います。でも指導を通じて現象1つひとつチェックして見ることができるようになって、原理を理解し、問題を解くときにしっかりと手順を踏んでそれが使えるようになったと思います。先生の授業はおもしろかった笑。物理学の基礎概念をきっちり整理されて教わることができ、思考がクリアになりました。

10.面接・口頭試問

東大の面接はどうだった? 雑談した?

面接の場で受験生が話した内容について先生方と談笑するような雑談は、人によってはあると聞いたことがあります。ただ、私の受験時には雑談というわけではありませんでした。

特に噛みつかれたような質問もなく、圧迫感もありませんでした。体感では5分で終わったと思ったくらい短かったです。

自己紹介をして、数理工学を勉強したくて志望して、将来は云々、と述べました。その後志望理由書の内容から質問を受けて、それぞれ答えました。「試験についてどうだった?」と訊かれたので「物理で対策していない分野の問題が出たのが一番印象に残っています」と答えたところ、ちょっと笑いが起きました笑。

中央ゼミナールでの面接練習はどうだった?

〔講師2名と対面して、本番を想定した面接練習を行ったことがある〕
練習のときは先生からの問いに、あんまりうまく答えることができませんでした。

面接練習の時には「だいたいこういうことは訊かれるだろう」という質問は尋ねるけれども、あとは会話の流れで質問している。実際の面接なんていうものは一問一答のようなクイズではないので、別に「本番で訊かれる質問をしよう」なんて少しも思っていない。そうではなく、「練習で行った質問が別に本番で訊かれなくてもええわ」、暗記じゃないんだから「面接の状況におかれた時に自分できちんと考えて、それで答えられるようになってくれたらいい」と意図して面接練習を行っている。

11.勉強することについて

勉強のモチベーションをコントロールするのはなかなか大変。

全体的に死ぬ気でやってました笑。でもおかしくなりそうな時には数学や英語の先生に相談することができて、心の支えになってもらいました。

不安になります。「実力が伸びていないんじゃないか」という不安ではなく、むしろ漠然とした不安です。勉強は嫌いじゃないけれども、「これだけ勉強したのに落ちちゃったら嫌だなー」と不安になることがありました。考えすぎてしまう癖が多かったですね。

すごい親近感を覚える。自分なりに考えてきたことがあってそう思うんだろうね。

私が東大を目指そうと思った時期は、他の人に比べて遅いと思います。3年生の頃には東工大を志望していました。ただ、試験科目に化学があったので、化学に勉強時間を割かれるくらいならそれを他の科目の勉強に費やして東大に行った方がいいんじゃないか、という発想になりました。

どうして化学が苦手?

学校で化学の授業を受けていてもダメで、覚えるのありきというのが嫌い、しんどいですね。化学の成績が良ければ京大に行ってたかもしれません笑。

あなたが取り組みたい学問内容からすると、化学はあんまり関係ないもんね。

どんな大学生活を送りたい?

まずは数学ですね。数学をやりつつゲームもやりつつ。

ゲームは意外だね。

beatmaniaや「勇者のくせになまいきだ。」などにハマりました笑。高専1年生のときはネット、2年生から音ゲーを始めて3年生で段位が取れました。4年生になったら勉強に集中し始めました。

勉強の気休めのときでも、ゲームには手を出しませんでした。多分のめり込んでしまいそうで。むしろ何もしない時間を設けて、勉強しない時間を設けました。

何もしない時間って言っても、「何も考えない」ことは出来ず、結局ぐるぐると考えることになる。

勉強しないときにめちゃめちゃ考えてました。

私は数学自体やってるのも好きだし、いろんな勉強がしたかった。自分は純粋な理系だとも思っていなくて、芸術や文学などもかじってみたかった。数学を好きでやってるというのは親近感があるね。

数学の勉強とは、概念の獲得であり、発想の獲得であると思います。数学書を読んでいて、それが数学以外の普段の思考にも広がっている気がします。新しい考え方の獲得というか。

デキる人はみんなそんな感じのことを言うね。英語の勉強をしているときって、別に「英語の勉強をしている」わけじゃないんだよ。英語の勉強を通じて、日本語を勉強している、語彙力、論理力、わかりやすい説明の表現力など。

勉強全般ってそうなんだろうなって。科目や対象を通して、価値観やものの考え方、知識を獲得していく。それが勉強というより「学習」なんだろうなと思いました。あらゆるものが学習になるんだと思います。

講師の後日談

合格の秘訣が、まさにこの発言に表されていると思う。

指導と言うと、1から10まで全て、初めから終わりまでの全プロセスを説明することだと考えられがちだが、それでは指導を受ける側が常に牽引されるだけのリヤカーのままで、実力が伸びない。単体では全く使えない。

そうではなくて、あの方法はどうか、次の方法はどうか、なぜその解法がダメなのか、どうしてわざわざこんな文言を書かなければならないのか、と自分で考えて行動し、失敗したら自分で軌道を修正する、そういう力を磨くのが、指導に求められる役割なのではなかろうか。難関大学を目指す方はもちろんだが、そうでない方にとっても短期間で効率的に能力を伸ばすには、こういう指導が必要となる。

知識だけではなく受講生の方の思考プロセスをきちんとチェックして指摘する、そういう指導が理想的だが、講師1人はいったいどれくらいの数の受講者の方を同時にチェックできるだろうか。大学の一般入試までのように答えがハッキリしている高等学校教育課程の中から出題される問題ならば、簡単だからそれほど問題にならないだろう。

しかしそういう些末な知識から出題されるのではなく難解な学問から出題される編入学試験の対策で、講師1人は受講生の方を同時に2人以上チェックできるだろうか。受講生の方1人こそが主役であって、講師1人が主役1人の能力をきめ細やかにチェックしてサポートする体制が機能したといえる。

そうやって自らが動力源となってさまざまな領域に突っ込んでいける自動車こそ、編入学試験で求められている素養であり、今後の人生の選択肢を自由に掴むことができるのだろうと思う。

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